勝ちの日と負けの日

勝ちの日と負けの日

NHKのテレビ番組「おかあさんといっしょ」の体操のお兄さんとして、佐藤弘道さん(36)がかかわった3歳児の数はおよそ15万人。出演開始の93年から12年間の定点観測の結果、「『子供が危ない』と言うけど、僕の出会った3歳児は昔も今も変わっていない」と力説する。では変わってしまったのは誰?

93年から今年春まで続いた「おかあさんといっしょ」のきっかけは番組オーディションだった。以前は中高年のスポーツ指導員だったから、カルチャーショックは大きかった。「おもらしは日常茶飯事。けんかや転倒、急に泣き出す子もいた」。子供をもっと知らなくては、と収録のない休日には子供の体操教室に通った。「スタジオで親と離れるのは、どんな3歳児でも不安です。不安を取り除くのが僕らの仕事。だから子供が全員参加できた日は僕らの『勝ち』。一人でも参加できなかった日は『負け』」。毎日の「勝負」を繰り返すうち、段々と「勝ち」が増えていった。

ところが10年目を迎えたころだろうか。「負け」の日が急に目立ち始めた。「全員が参加してくれる『勝ち』の日がほとんど消えた」。参加できない子の数も増えていった。なぜだろう、と佐藤さんは考えた。子供は変わっていないように見える。では、変わったのは誰?答えは「お母さん」だ。いつもより濃い化粧でおしゃれした母親に連れられ、NHKのスタジオにやってきた子供たちは新しい場所より、普段と違う母親の気迫の方に緊張する。少しでも娘をかわいく見せたくて、母親が髪をお団子に結ったせいで、髪留めが痛いと泣いた子がいた。熱があるのにスタジオに連れてこられ、熱性けいれんを起こした子もいた。母親から離れようとしない子供をスタジオの隅でたたいた母親もいた。そんな母親が少しずつ増えていった。

24歳で「体操のお兄さん」と呼ばれてはや12年。今は体操教室の指導やテレビ出演で大忙し。7月から筋肉ミュージカルの夏公演も始まる。今や「お兄さん」より「お父さん」の年齢で、4歳と8歳の息子を持つ父親でもある。それでもやっぱり「お兄さん」と呼ばれることが多い。「自分も親になって、お母さんたちのつらさも分かるようになりました。お母さんが『変わった』のはお母さんだけのせいじゃない。お父さんはお母さんを支えているだろうか。お母さんは独りぼっちで子育てをしてないだろうか」佐藤さんの原風景は、地域の人々や祖父母らがいろいろな経験をさせてくれたアパート暮らしだ。自分の父母が近所の子供に分け隔てなくご飯を食べさせてやるのも見て育った。「だから僕は、親だけで子育てをしないほうがいいと思う。学校には学校、地域には地域、家庭には家庭にしかできないことがある。大人はもっともっと子供のために頑張らなきゃ」
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by toranoo0812 | 2005-06-21 00:00 | 小さなニュース
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